レッド・クリフ(赤壁の戦い)続き

配役として最も画面を喰っていたのは中村獅童演じる呉の将軍甘興(かんこう)。甘興は架空の人物で、たぶん呉の猛将甘寧(かんねい)と太史慈(たいしじ)をMIXさせたイメージをモデルとしていると思われるが、とにかく中村獅童はこういう武闘派役を演じるとスゴイはまると思うね。「男たちの大和/YAMATO」でも男気あふれる下士官役が良かったし。「男たちの大和/YAMATO」は作品としてはどうかな?という映画だったが、とにかく中村獅童は、劇中、レイテ沖海戦で重傷を負って長期入院の身だったのに、大和が最後の出撃をするという報を聞くや、確実に戦死する事が判っているのに病院を脱けて密航者として大和に乗り込むという熱き「漢(おとこ)」っぷりを見せつけるハマリ役で良かったのと、あとこの年の紅白歌合戦で長淵剛が、この映画の戦艦大和のオープンセットから生中継で主題歌の熱唱をお送りしたというエピソードが記憶に残っている。
「レッド・クリフ」における甘興将軍も役柄の設定は、大雑把に言えば「男たちの大和/YAMATO」の時とほぼ同じといって差し支えない。ただ新発見だったのが中村獅童の顔って、「武将顔」なんだなあと。それも三国志の武将が最も似合っている。古代中国の甲冑との相性が非常に良好で、これが源平合戦の頃の糸威の甲冑や、戦国時代の当世具足だとちょっと違う気がする。
映画の本筋に話を戻すと、「PART2」では、いよいよ曹操の大船団に、呉の軍勢が攻め込むというクライマックスを迎える。ここで残念だったのが、呉の老将、黄蓋(こうがい)が、周瑜との間で「苦肉の計」という策を曹操に仕掛ける描写を省略したこと。
「苦肉の計」を現代の会社で説明すると、抜群のカリスマ性と天才的能力によって30代にして執行役員(CEO)に上り詰めた男(周瑜)が、60手前にしてようやく課長になった叩き上げの社員(黄蓋)にパワハラ(鞭打ちの刑。これが苦肉の語源)を繰り返し、これに耐えかねた黄蓋課長は、ライバル会社(曹操)に、「ウチのCEOの仕打ちはヒド過ぎなんです。なので御社に転職したいのですが」という手紙を出す。しかしライバル会社曹操社長は世に知られた切れ者。「お前の話はホントか?実はウチに潜り込んでスパイしよってんじゃないの?」と疑う。しかし黄蓋は、「とんでもない。御社に忠誠を示す証拠に、自分の部下(軍勢)を引き連れて、日時を決めて寝返りますから。」と連絡する。曹操は自社のスパイ情報によって、黄蓋が鞭打ちとかマジで周瑜にイジメられている事をつかんでいたので「ならば信用しよう。」となる。しかしパワハラも含めて全ては周瑜の計略で、しかも黄蓋の寝返る日は、偶然にも東南の風が吹き荒れていた。曹操側にしてみれば風下のため、火計を掛けられると危険な状況の中、黄蓋の船団は長江を北上して曹操陣営に向かう。
実は黄蓋の船団は藁を満載していて、曹操の大船団に火をつけた藁満載の船を風上から突っ込ませる。更に曹操は事前に「連環の計」という、船同士を連結させる周瑜の策略に嵌っているため船団が緊急脱出も出来ず、100万といわれた曹操軍がいとも簡単に壊滅する。「苦肉の計」は省略されたが、黄蓋が火計で特攻するシーンは大迫力で描かれていて、まあこの辺りが「レッド・クリフ」最大の見せ場です。(続く)