映画「プラトーン」と、その周辺

nisi6hiroyuki2007-08-24

今日も映画ばなし。ウチ(3DK賃貸マンション)の1F玄関ホールには、本棚が1つ置いてあり、いわゆる『自由文庫』で、住人が好き勝手に古本を置いてったり持ってったりしているのだが、最近思わず手にとってしまったのが「プラトーン」の文庫本だった。この原作本は未読だったが、映画のほうは思い出があり、当時高1だった日本公開時に、クラスメート3人と、渋谷の東急に観に行ったのを思い出した。まだ高1の5月くらいだったと記憶しているが、要するにまだみんな高校生活とかクラスの雰囲気などがぎこちなく、この映画を期に我々4人は打ち解けるに至ったのだった。映画自体の当時の感想は「すごいリアルな戦争映画だなあ」という衝撃である。20年経ってこの映画を振り返るに、自分の映画鑑賞経験値の上昇もあるが、今「プラトーン」をリメイクしたならば、戦闘(戦死)描写なんかはもっと原作に忠実にやるだろう。この辺が当時(80年代中期)の米映画の限界であり、「銃で撃たれても胸を押さえて倒れるだけ」という域を脱しない作品であることは否めない。自分はベトナム戦争にはほぼ関心が無いため間違っているかも知れないが、軍装および兵器関係の考証はちゃんとしているように思われ、それが当時感じたリアルさの一因かも知れない。

ところで原作を読み進むうちに感心したことは冷徹なまでの戦争屋バーンズ曹長役のトム・ベレンジャーはイメージぴったりのハマリ役であるということ。さすが12チャン系俳優(と決定してよいだろう)。彼主演の「山猫は眠らない」(未見のため推測だが、彼の役どころは超プロの傭兵かスナイパーのどっちか)が、近年の「木曜洋画劇場」枠で2〜3回かかっていると思う。そんな女子ウケの可能性0%のトムベレは、「プラトーン」の2年後くらいに「メジャーリーグ」でチャーリー・シーンとまた共演するのである!ここでの彼は、目はうつろ、脱力感たっぷりのユルイ中年オヤジで、片やチャーリー・シーンは、「プラトーン」の成功であれだけ若手スターのホープと期待されながら、この作品で路線がブレ始め、(アホな髪型と名曲ワイルドシングしか記憶にないが)残念なことにもはや元に戻れなかった。

さて、実はタイトル中の「その周辺」が今回のキモで、いわゆる戦争映画のなかでも「ベトナム戦争もの」は1つのカテゴリーとなっており、まあ、そのへんの知識はマニア本やWiki等で得られるのだろうが、自分なりの意見(そんなに詳しくないけど)を述べます。ベトナム以外も。

まず、「ベトナム戦争もの」は大きく分けて3つの波がある。

1:国策映画の時代→60年代末〜70年代初期
ジョン・ウエイン主演の「グリーン・ベレー」(未見)が有名。アメリカ絶対正義の前提で作られ、内容的にもお粗末(すでに晩年に入ったジョン・ウエイン主演って時点でヤバイが)1例として、未見のためこれは本で読んだエピソードだが、ベトナムは国の東を太平洋に接している(つまり朝日は海から昇る)のに、作中夕日が海に沈む描写がある(アメリカ西海岸で撮影しているので)
一方、当時映画業界ではおおっぴらにベトナム戦争批判できなかったのか、60年代末から舞台を別に設定してるがそれっぽい暗に批判的な作品が登場する。「戦略大作戦」はWW2末期の欧州戦線を舞台にしているが、そこに出てくる米軍戦車隊長役のドナルド・サザーランド(24のキーファー・サザーランドの父)は完全に時代を間違った役作りで、野営地でハッパ吸いながら瞑想に耽ったり(男女入り乱れての集団で)、戦車にスピーカーを直結して曲流しながら進撃したりしてる。「M☆A☆S☆H」は朝鮮戦争の話だが、米軍に詳しくない自分は最初これもベトナムものかと思ったくらいで、内容はかなりいい意味でイッちゃってる。

2:思索の時代
戦争終結後の70年代中期からは、正直にベトナム戦を見つめ直すようになり、70年代前半のアメリカン・ニューシネマムーブメントの余韻も影響してか、暗く重苦しく、しかし非常に思索的な2大名作が誕生する。「ディア・ハンター」「地獄の黙示録」である。「ローリング・サンダー」も暗くて良かった。第2次ベトナム戦争映画流行期で他にもいろいろあるみたいだか未見のため省略

3:第3次流行期(80年代中期)
これは明らかに「プラトーン」が火付け役。その前に「ランボー」があるがここでは区別したい。「プラトーン」以後「ハンバーガー・ヒル」等雨後の筍のごとく亜流作品が続出するが、当時「フルメタル・ジャケット」もそれかと思い込み未見なのが後悔。米軍本格介入直前の時期の後方基地を舞台とした「グットモーニング・ベトナム」は名作。

この辺でネタが尽きたか、80年代末からは「デルタ・フォース」シリーズや「ランボー2,3」等のもうベトナム関係なしの世界に突入。一方「リーサル・ウェポン」シリーズ「ダイ・ハード」シリーズなど刑事アクションがアクション映画の主流となり、戦争ものは、90年代末まで雌伏を強いられる。
94年の「フォレスト・ガンプ」のベトナム戦争シーンは戦争映画にとってCGの可能性を開拓したエポックメイキングとなり、その後のCG技術の急激な発達で、それまで実写化が難しかった大規模戦闘シーンが可能となった現在、戦争映画の主流はWW2ものと、時代を大幅に遡ってギリシア・ローマ時代ものの2ジャンルが多数を占める。個人的にはナポレオン戦争時代を題材にしたものを作って欲しい(細かく言うと、ロシア戦役後の、プロイセンシャルンホルストグナイゼナウといった面々が活躍し始めるあたり。ドイツびいきの為)。WW2ものでは特に「プライベート・ライアン」は自分的には思い入れの強い映画であり、機会を改めて述べたいと思う。