貴族!(その7)

(続き)
モノクル=片眼鏡。そして貴族。これで思い出した映画があった。
大いなる幻影」(1937年・仏)最近「ルノワールルノワール展」というのをやっていたようだが、19世紀後半の印象派の画家オーギュスト・ルノワール(また登場でくどいようだが中公文庫「世界の歴史・ブルジョアの世紀」では、カバーイラストはルノワールの名作「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」だったのを思い出した)と、その息子である映画監督ジャン・ルノワールの2人のルノワール展のようだ。(絵画は門外漢の為これ以上のコメント無し)「大いなる幻影」はこの、ジャン・ルノワール監督作品で、クラシック映画の名作とされているのだが、自分的観点によるこの映画の偉大な点は「捕虜収容所モノの元祖」であるということ。自分的には「捕虜収容所モノ映画」は名作が多い。「大脱走」「戦場のメリークリスマス」の2本は、私的映画ランキングの上位に入る。名匠ビリー・ワイルダー監督の「第17捕虜収容所」および巨匠デヴィッド・リーン監督「戦場にかける橋」は自分的にはイマイチ乗れなかった。ややB級では「勝利への脱出」という、81年頃の、シルベスター・スタローン主演映画は意外に面白かった。あらすじは、スタさんをはじめとする連合軍捕虜達が、ドイツ軍側が元プロ選手などの軍人達で結成した最強サッカーチームとのプロパガンダ目的の試合を強要され(もち捕虜チームには数々のハンデが負わされ、試合に勝てない仕組みになっている)、しかしスタ達はこの試合を利用して脱走計画を練る。本来ハーフタイムの隙を突いて脱走する予定だったが、「やっぱ脱走よりも試合に勝ちてえ!」という状況になっちゃう単細胞ぶりが良かった。
話が逸れた。上記の作品は全て第二次世界大戦が舞台となっているが、この「大いなる幻影」は、戦前の1937年の映画で、ここでの舞台は第一次世界大戦である。この映画を観ていてつくづく感じたのは、「WW1が、古来からの貴族文化や騎士道精神が生きていた最後の戦争だった」ということ。ちょっとあらすじに触れてみる。
フランス軍飛行隊のポアルデュ大尉とマレシャル中尉は敵陣の偵察飛行に出撃する。しかしドイツ軍のラウフェンシュタイン大尉の戦闘機に撃墜される(劇中では戦闘描写は出てこない)ラウフェンシュタインは、自分が撃墜した捕虜を早速兵営での食事に招待する。ここで、ポアルデュが自分と同じ貴族階級であることを知り、敵ながら一種の同志のような感情を憶える。その後ポアルデュとマレシャルは捕虜収容所に送られるが、同室になったローゼンタール中尉はユダヤ人の金持ちで、彼の家族から送られてくる差し入れのおかげで、彼等はドイツの看守達よりはるかに豪勢な食事にありつけるのであった。(捕虜に差し入れが許されているというのも、古き良き時代だったということか)意外に自由な収容所生活の合間でも、彼等は脱走を計画し、地下トンネルを掘り続けていた(トンネルを掘る描写は、後年「大脱走」がパクッた?と思える程酷似)。が、トンネル開通寸前で捕虜達は別の収容所に移されることとなり、脱走出来ず。ポアルデュとマレシャルは脱走未遂を繰り返しながら収容所と転々とし、最後に移送されたのは一見して脱走不可能と分かる山岳地帯の山頂にある古城を改造した収容所だった。そして奇しくもこの収容所の所長は戦傷の為配転となったラウフェンシュタインであった・・・。
あらすじの説明はこの辺でやめにして、2人の主人公、ポアルデュ大尉=貴族出、マレシャル中尉=庶民出であり、2人の関係は決して悪くないのだが、生活習慣などでどこか噛み合わない点もあり、むしろポアルデュは、敵ながらラウフェンシュタインとの間で深い友情が芽生えつつあった。フランス・ドイツと国は違えどお互い貴族階級であり、貴族の社交界というものはヨーロッパでは国の境があまり無いのでマレシャルより遥かに話題は共通するのであった。そして2人ともモノクルを愛用し、手を綺麗な状態に保つため白い手袋を毎日替える習慣も同じなのだ。うーん、これぞ貴族!オラのような、家に帰ると速攻靴下を脱ぎ捨てる人間からするとなんで日常手袋を着用してなきゃなんないのか理解不能です。指のあいだとかムレて痒くならんのかなー。それはともかく一方で平民出身のマレシャルとローゼンタールの2人は陰で下ネタトーク&「ポアルデュはイイ奴なんだが、育ちがいいからイマイチわからん」などと言い合って意気投合し、この2×2の関係はやがて対照的な結末へと進んで行く。ところでこの、将校ながらややワイルドな面もあるマレシャル中尉の役はフランスの名優ジャン・ギャバンが演じている。ジャン・ギャバン、スゴイ好きなんだよねー。自分の脳内印象では、晩年の、親子ほど齢の離れたアラン・ドロンとの共演作がイメージ大なのだが、「大いなる幻影」での若かりし全盛時代のジャン・ギャバンはマジカッコいいわー。いわゆる2枚目とは違い、顔つきは結構ゴツくてとても美男子とは言い難い。でもカッコいい。なんかこの顔を観るだけでもお金払ってもいいような「立派な顔立ち」なんです。日本にはこういう俳優は今いないなあ。強いて例えるなら昔の三船敏郎が当てはまる位か?アメリカだとブルース・ウィリスなんかイイ線いってると思うけど、ジャン・ギャバンのほうが「品格」がある。品格となると、ラウフェンシュタイン役のエリッヒ・フォン・シュトロハムは劇中「全身これ品格」という雰囲気がビシビシ伝わってきて、さすが映画界の怪物と言われるだけの存在感を感じる。

写真下、マレシャル中尉(ジャン・ギャバン)上段向かって左、ポアルデュ大尉(ピエール・フレネー)右、ラウフェンシュタイン大尉(エリッヒ・フォン・シュトロハム)
ピンボケ写真の為判りづらいが上2人の貴族はモノクル着用です。(余話へ続く)