戦場のメリークリスマス

映画「戦場のメリークリスマス」(83年、日・英他)は、自分にとって最も印象深い映画の1つである。ストーリーが感動的という事でもなく、「戦場の〜」という邦題のくせに戦闘シーンは全くなく、つまり劇的な場面が無く淡々と時間が過ぎていくというタイプの映画で、例えばアンドレイ・タルコフスキーの映画も「淡々と時間が過ぎていく」タイプなのだが「戦メリ」はタルコフスキー映画程の深みも哲学性も無い。
それでも「戦メリ」は強烈な印象を残す映画だ。理由は何なのか?1つには坂本龍一によるサウンドトラックの素晴らしさ、もう1つは悲惨な環境にある日本軍捕虜収容所を舞台にしている映画とは思えぬ映像美である。この映像美はタルコフスキー映画に勝るとも劣らぬ出来と言える。最後に「戦メリ」を観てから20年近く経過しているがあの美しい場面の数々はいまだ鮮明に憶えている。ヨノイ大尉(坂本龍一)とロレンス中佐(トム・コンティ)が歩きながら語り合うシーンでの背景、赤道直下のインドネシア・ジャワ島であるのにまるで雪景色のように感じられる白塗りの武骨な石造りの収容所の建物や、ジャック・セリアズ少佐(デヴィッド・ボウイ)が収容所に送られて来た晩、ハラ軍曹(ビートたけし)とロレンス中佐が様子を見に行くシーンでの夜の美しさ。夜間シーンでの美しさはこの映画の特筆すべき点で、他にもセリアズとロレンスが脱走を図るシーンや、夜中に突然ロレンスがハラ軍曹に例の白亜の収容所本棟に呼び出されて、粋なクリスマスプレゼントを贈られる(というか言い渡される)シーン、首だけ残して生き埋めにされた瀕死のセリアズにヨノイ大尉が髪を形見に切り取りに訪れる場面、映画ラストの、戦争が終わってお互いの立場が逆転し、今度は戦犯として収容されたハラ軍曹のもとをロレンスが訪れるシーンも夜だった。夜間シーン以外でも、朝鮮人軍属カネモト(ジョニー大倉)がハラ軍曹に切腹を強制されるシーンでは、その壮絶な状況の一方で周囲の景色はまさにヤシの木と群青色の海という南国リゾート地まんまな風景という対比も凄かった。あと、セリアズの回想シーン英国の故郷での少年時代の、美しい田園風景と彼の家の、花が咲き乱れる庭も幻想的な美しさがある。あと思い出されるのは、反抗的な態度を取り続けるセリアズ少佐に対して業を煮やしたヨノイ大尉が「行(ぎょう)」として捕虜達に48時間の断食を課すシークエンスで、雨の中掘っ立て小屋のような粗末な捕虜収容棟が映し出され、捕虜達が合唱を始めるシーンも美しく、マジであの収容所に入ってもいいな。と子供心に思った記憶がある。


コチラの動画はそれらのシーンの中で、ラストのロレンスがハラ軍曹を訪ねる場面です。
次回は「戦場のメリークリスマス・ツッコミ編」を書きます。