戦場のメリークリスマス(ツッコミ編)

nisi6hiroyuki2010-02-27

ツッコミ編とは大見得を切ってみたものの、それほどツッコむ要素は無かった。が、今回は内容を決めてかかっている以上、都合により内容を変更してお送りするというワケにも行かない。
まあ、「戦メリ」での一番のツッコミ所は、坂本龍一のメイクというか化粧というか、大日本帝国陸軍の将校にあるまじき(いや、どこの国の軍隊でもあるまじき)オカマメイク。ああ、唯一「モンティ・パイソン」でオカマの英国将校のコントがあったけど、「モンティ・パイソン」と違って「戦メリ」はすごく真面目な映画なんだけどねえ。あのメイクだけはよくワカラん。
あの当時(1982,83年頃)って、理由はわからないが「化粧ブーム」みたいなのがごく一部の男性ミュージシャンの間であったのだろうか?確か沢田研二郷ひろみってメイクしてなかった?決定版はやっぱ「いけない ルージュマジック」だね。忌野清志郎坂本龍一の衝撃的なキスシーンで有名なあの曲です。確か化粧品のCMでも使われたこの曲、キスシーン&2人のメイク顔が物議を醸していた変な時代でした。で、勝手な推測をするに坂本龍一は、この時の化粧がいたく気に入って、「戦メリ」でもこの顔で押し通したのではなかろうか?
もう一つこの映画で気になったのが、出演者にミュージシャン系の人が多いこと。主演のデヴィッド・ボウイ坂本龍一は無論のこと、チョイ役で顔を見せるのが内田裕也三上寛。あと忘れちゃいけない朝鮮人軍属カネモト役のジョニー大倉ビートたけしもこの頃は歌手活動もしていたし、大島渚監督のセンスって意外とトンガッているのかもしれない。
「戦メリ」で最も重要なテーマは「同性愛」それも露骨な形のホモセクシュアルではなくてもっと抽象的な、精神的な同性愛を主眼に置いていると思うのだが、そういう意味では坂本龍一のオカマメイクは当時小6だった自分にも非常にわかりやすくこの映画のテーマが伝わってきた。
他のツッコミどころとしてはジャック・セリアズ少佐役のデヴィッド・ボウイ。劇中セリアズの少年時代の回想シーンがちょくちょく挿入されるのだが、最初はセリアズは子役が演じているものの、寄宿学校でのシーンになると、もうデヴィッド・ボウイ本人が生徒役を演じている。でも実際の彼はすでに30代のハズで、いくら若作りのルックスでも学生役はちょっと無理があった。しかしこのセリアズ少佐はホモセクシュアルなのかノンケなのか、原作本「影の獄にて」を読んでないから判らないが、少なくとも同性愛の気のあるヨノイ大尉(坂本龍一)の、彼に対する想いには気がついていて、その上でヨノイの心を弄んでいる節がある。しかも自身の過去にもトラウマを抱える(身体障害のある弟を見放した過去)という微妙なニュアンスを必要とされる演技を見事に演じたデヴィッド・ボウイは良かった。一方のヨノイ大尉こと坂本龍一は、セリフ棒読みだし、そもそも滑舌が悪くてセリフが聞き取りづらい。けれどその朴訥さが逆に2.26事件に参加できなかった後悔の念を引きずる青年将校という役柄にマッチしていたと思う。推測するにセリアズは女性経験があったと思うがヨノイは多分童貞だろうね。映画前半において、ヨノイがジャカルタに出張して、捕虜となったセリアズ少佐に対する、スパイ容疑での軍事裁判に出席するシーンがあるのだが、(この軍事裁判のシーン、当時の日本軍は意外とちゃんとしてる面があって、敵軍捕虜に対して弁護人を立てている。それがヨノイ大尉で、対する検事役がイワタ法務中尉、まだ若い頃の内藤剛志が演じている。)この時のセリアズを見つめるヨノイの眼差しが尋常ではなくて、すでに好意が芽生えているのだろう。
同性愛という観点では、この映画で唯一露骨な感じで同性愛を表したのは朝鮮人軍属カネモトが、オランダ軍捕虜デ・ヨンを犯したという騒動で、ハラ軍曹(ビートたけし)がカネモトを(当時の時代背景を考えればリアルな描写だが)差別的な感情を顕わにして虐待するというシーン、そして最終的にカネモトは切腹となり、ハラ軍曹が介錯をした時、デ・ヨンは舌を噛み切って自殺するという壮絶な展開。つまりカネモトとデ・ヨンは相思相愛だったという事実。それから、セリアズがヨノイの心を惑わしてるという思いからセリアズを殺しに行く日本兵。彼もある意味同性愛的な感情(ヨノイに対しての)を抱いての行動だろうし、この映画で最も有名なシーン。セリアズがヨノイの頬にキスをするシーン。直後にヨノイが失神してしまうというのも凄いし、これに反応してヨノイの部下が絶叫しながらセリアズに殴りかかるというのも男同士の愛憎を感じる。いやあ、大島渚監督スゲエわ。初期の「朝まで生テレビ」で、いい歳こいて野坂昭如とマジで殴りあいの喧嘩を始めるというテレビの生放送に全く配慮無しな姿勢といい、この人はロックですねえ。
結局のところ大島渚は偉大という結論で終わります。