地下鉄

最近読んだ本で印象的だったのが「帝都東京・隠された地下網の秘密」という文庫本。普段は本を買う場合、相当時間立ち読みして内容を吟味した上で購入するか否かを慎重に決めるのだが、何だかタイトルだけでもキナ臭いものを感じて、今回は即「ジャケ買い」ならぬ「タイトル買い」をしてしまった。(といってもブックオフにて半額で買ったので、失敗してもそれほど後悔は無いかなという計算もあった)
内容をかいつまんで説明すると、戦前の東京には地下鉄は銀座線1本のみで、他の路線は建設途中もしくは計画段階だったというのが歴史的事実とされるが、実は東京の地下鉄網は戦前・戦中の段階で現在に匹敵する位の規模が既に完成していた。しかし戦時中の諸事情(例えば、本土決戦の際地下陣地として利用したり、部隊や軍需物資の移送計画等)の為、国民には公表されていなかった。この地下網(地下鉄だけでなく知られざる地下道も含める)の存在を幾つかの傍証によって明らかにしていくのが本書の主な内容である。
高校時代に観た「帝都物語」の記憶もあって、戦前の東京、関東大震災後の復興計画と帝都建設計画がシンクロして、本書にあるような地下網建設も、「もしかしたら有り得るのかな」と思ってしまった。また数年前に「メトロに乗って」という、現代のしがない中年サラリーマン(堤真一)が、地下鉄の出口を出たら過去にタイムスリップしていて、自分の父親(大沢たかお)の戦中から戦後の若かりし頃に遭遇するという映画があり、大沢たかおが出征する際に乗った地下鉄が、当時の帝都高速度交通営団・銀座線だったのかあと思い返したりした。
自分はこういう「もしかしたら有り得る」という話が好きなようで、昔、落合信彦の「2039年の真実」を本気で信じて読んでいたし、小学生当時は五島勉の「ノストラダムスの大予言」シリーズを全巻読んで、本当に1999年に世界が滅亡すると信じていた。
まあ「ノストラダムス」は結果大ウソだった訳だが。
「帝都東京・隠された地下網の秘密」は、かなり説得力のある仮説を立てているが、疑問に思ったのが、当時の日本の国力で、わずか十数年のうちに総延長400Kmに及ぶ地下道を、東京都心に建設出来たのか?という点。しかも軍事力の増強を最優先していた当時、軍事面では副次的な地下道建設工事が本当に行われていたのだろうか?
もう1つ気になったのが、これは著者が意図的にそうしているのかも知れないが、文章が読みづらいということ。主語が無い文章が多く、一体何について論じているのか、前後の内容から類推したり、説明的な論調から急に著者の体験談や感想が挟まったり、1度読んだだけでは理解し難い本である。がこれは恐らく著者が「あえて」奥歯に物が挟まったような表現をしている、つまり明快でストレートな文章だと、出版出来ないような、かなりキワドイ事柄を扱っているのではなかろうか?著者もその辺の事情を匂わせている所があり、ちょっと読み捨てには出来ない本だなという感想を持った。

  • 「帝都東京・隠された地下網の秘密」(新潮文庫
  • 著者:秋庭俊
  • 初版発行:平成18年2月1日

自分は鉄道オタクではないので、地下鉄についても特に興味も知識も無いが、脳内メモリ的思い入れとしては、就職してから10年程、通勤に都営地下鉄浅草線の終点である西馬込という駅を自宅の最寄駅として利用していて、この駅には格別の愛着がある。普通、東京の地下鉄は都営線にしろ東京メトロにしろ、本来の終点駅からさらに郊外へ向けて私鉄各社と乗り入れをして首都圏の通勤事情に寄与しているのだが、この西馬込駅は純粋に都営浅草線の終点で、延伸はされておらず、何とも中途半端な位置に存在している駅である。浅草線は、もう一方の終点押上駅から先は京成線、さらに北総鉄道へと乗り入れて千葉県の奥深くまで進出しているのに、こちらは大田区の途中で路線が終わっているのが不思議である。ここで、「都営浅草線西馬込〜川崎駅までの延伸計画」がかつて存在していたという事を以前ネットで仕入れたのを思い出した。確かにこの辺りでは、浅草線は国道1号の地下を通っている為、そのまま道路沿いに川崎まで延伸するのは工事の面でも比較的容易なはずであるし、他の地下鉄の状況と照らし合わせればむしろ延伸しない方が不自然である。では何故延伸しないのか?これには東急電鉄の思惑がからんでいるそうで、浅草線を延ばすと、恐らく西馬込の次の駅として東急池上線池上駅の近く(以前このブログで取り上げた、トーヨーボールの辺り)に駅が出来ると推測され、そうなると都心方面へ向かう乗客が、池上線より遥かにアクセスの良い浅草線に奪われること必至なので、東急側から横槍が入ったと言われている。
「帝都東京・隠された地下網の秘密」では、戦前の地下鉄建設計画に携わった重要人物として五島慶太(東急の創業者)が登場する。そして本書によれば当時、現在の浅草線にほぼ一致する路線計画免許を五島が持っていたが、東京市から何らかの事情で失効とされてしまうという記述がある。かつて(もしかすると現在でも)東急と都営地下鉄の見えざる縄張り争いがあったのかも知れない。
この延伸計画の名残りなのか、実際西馬込駅を超えて1Km程先まで、地下からの換気口が国道1号線沿いに存在しており、つまりこの辺りまで地下鉄の線路が存在しているという事であるが、当然我々一般市民には公開されていない。(現在の目的としては、近くの車輌基地への誘導路として使われているのだろうけど。)