映画の中の戦車(WW2独軍限定)

今回は映画編とミリタリー編の折衷版というところか。
多分中1くらいの時にテレビ(おそらく日曜洋画劇場)で見た「遠すぎた橋」(77年英/米)という、第二次大戦末期欧州戦線(西部戦線)で、イギリスのバーナード・モンゴメリー元帥発案の「マーケット・ガーデン作戦」という、戦史的にはマイナーだが意外と大規模な作戦を扱った映画に衝撃を受けた。この映画とにかく尺が長くてノーカットで行くと3時間近いシロモノで、キャスティングも豪華。ざっと挙げるとショーン・コネリー(英)、ジーン・ハックマン(米)、ロバート・レッドフォード(米)、エリオット・グールド(米)、アンソニー・ホプキンス(英)、ライアン・オニール(米)、マイケル・ケイン(英)、ローレンス・オリビエ(英)、マクシミリアン・シェル(独)、ハーデイー・クリューガー(独)、他にも挙げきれないスターが競演しているがこれら全員ちゃんとキャラクター設定がしっかりしていてこの手の映画にありがちな「顔見せ的」な出演で終わらせていない所が素晴らしいが、それより当時自分が衝撃を受けたのは「これは1944年当時のドイツ軍をちゃんと描写してるな」と感じた点。映画冒頭の、ノルマンディ戦で敗れて戦車火砲等の重装備を失い徒歩で退却していくドイツ軍部隊や、マーケット・ガーデン作戦の白眉とも言えるアルンヘム橋に突入するSS第9装甲師団の装甲偵察大隊と軽装備にもかかわらず橋を必死で守る英軍パラシュート部隊の死闘(指揮官はハンニバル博士ことアンソニー・ホプキンスです!)に燃えた。そしてかろうじて装甲車部隊を退けたアンソニー・ホプキンスの前に現れたのは1輌のパンター戦車!重厚好きなドイツ人の感覚では重量45トンのパンターは「中戦車」なんだが(米軍のM4シャーマン中戦車が25トン位、日本の97式中戦車は18トン位だったかな)こんなヤツが出てきたらさすがのハンニバル博士でも降伏せざるを得なかったのだ。
さてここからが本題です。中1当時まだまだ勉強不足で、このパンター戦車を「これ本物じゃん!」と思い込んでいたのだった。しかし今改めて見直せばレオパルトにベニヤ板を貼り付けてそれらしく見せかけただけの(しかも全然似てない)シロモノであることに気づく訳で、当時の不明を恥じるばかりだ。まあ敗戦国ドイツの戦車は殆ど現存してないので何らかの「偽装」が必要なのだが、特に昔のハリウッド映画は偽装がヒドくて「バルジ大作戦」ではM48を「キングタイガー」と言い張るのはもう何の芸の無く、ここで取り上げたいのは同じ「偽装戦車」でも心のこもった作品を紹介したいのである。

これは戦争コメデイー&アメリカン・ニューシネマとしても傑作で、以前にも取り上げたがドナルド・サザーランド扮する米軍戦車隊長が時代を超えてヒッピーにしか見えなかったり、主役のクリント・イーストウッドは軍人役なのにキャラは完全にルパン3世。ドイツ軍が隠し持っている大量の金塊を強奪することしか頭に無くて、この目的の為だけに独軍大佐を生け捕りにしたり(尋問内容は金塊のことのみ!)SSの戦車長を買収したりと無茶過ぎです!で、このSS士官が乗っていたティーガー1型戦車、もちろん実車では無い訳でT34を改造したものなのだがこの偽装レベルはヤバいです。明らかに製作スタッフにドイツ軍ヲタがいたとしか言いようが無い程の出来で、大戦末期のティーガー1の仕様を再現している(ツィメリット・コーティングや3色迷彩塗装。それと所属部隊マーキングもイイ感じにキマッている)。このティーガーはマニアの間では「戦略タイガー」と呼び習わされているそうだ。

まあこの映画に関しては別に取り上げたいのだが、それはともかく、最後の激戦場面で登場するティーガー1は、「戦略タイガー」に引けをとらない位リアル。これもT34改です。もしかすると「戦略タイガー」を30年近い時を経て復活させたのか?とも思わせる。ユダヤ人のスピルバーグは勿論反ナチのスタンスであることは有名だが、「それはそれで置いといて、ドイツ軍は兵器とか軍装はカッコいいよね」と内心思っているに違いない。でなければ「インディー・ジョーンズ」シリーズであれほどドイツ軍を登場させないであろう(以上勝手な推測)それと更にマニアックなのが対戦車自走砲のマルダー2が2両(恐らく1両は実車で1両はレプリカ)出てくるのもポイント高し。
他には「スターリングラード」(01年・米)にチラッと登場する3号戦車もイイですね。1942年当時標準塗装のドュンケルグラウ(ダークグレー)にしているところがニクイ。映画史上でも名作とされている「地下水道」(56年・ポーランド)では、遠景にパンターが登場(多分これは模型)するが、これに対してポーランドレジスタンス達が、独軍から捕獲した「ゴリアテ」(遠隔操作で走る、爆薬を搭載した超小型車輌)を繰り出すシーンはもうオタクでないと理解不能でしょう。
最後に。「遠すぎた橋」でパンターが「全然違う」ことに気づいたのは、大学生時分に昼の12チャンでメチャクチャにカットされまくったバージョンを見た時だった。何せ本来175分あるはずが約半分にカットされてんだから。12チャンの善意か途中で図説やテロップを挿入して強引に戦況を説明するシーンが哀しかった。