貴族!(その5)

(続き)
どうも話が世界史の教科書的な展開になりつつあるので、ここで少し横に逸れたい。
以前、ヨーロッパでは高級軍人は貴族階級が独占していたということを述べたが、この事例で特に有名な国がプロイセン王国オーストリアとの間でドイツの覇権争いに勝利し、1871年にドイツ帝国を打ち立てる)である。元来プロイセンという国は18世紀には「軍隊が国家を所有している」とまで言われる程強力な軍事国家であり、この伝統はドイツ統一後も継続、第二次世界大戦まで続くのである。WW2ドイツ軍の高名な軍人で貴族出身者を挙げるとエーリッヒ・フォン・マンシュタイン、ゲルト・フォン・ルントシュテット、男爵ハッソー・フォン・マントイフェル、戦車伯爵ことグラーフ・フォン・シュトラハヴィッツヒトラー暗殺計画の首謀者兼実行犯であるグラーフ・フォン・シュタウフェンベルク等々数え上げるとキリが無い。
プロイセン軍というかドイツ軍では「ユンカー」と呼ばれる階層の、貧乏な下流貴族が将校になって生計を立てるというケースが多かった。これは奇しくも日本においては明治維新によって、サムライ達は士族と呼ばれる階層(大名以上の上流武士は華族として爵位が授けられた)となり、経済的には没落して、新たな明治国家の軍隊に入ることで活路を見出そうとした連中と酷似している。
さて、この「ユンカ−」という言葉、「ユング・ヘル」が転訛したものと言われている。「ユング」=英語でヤング。「ヘル」は男性敬称で、つまりラフに和訳すると「若旦那」となるのだろうか。これまた偶然に、イギリスでは「ヨーマン」という準貴族階級がある。これは「ヤング・マン」が転訛したものと言われていて、つまり「ユンカー」と全く同じ意味ですね。そしてユンカーにせよヨーマンにせよ「貴族」というより「田舎の地主」というのが実態である。ユンカーとは、男爵(フライヘア)、騎士(リッター)という下位の爵位すら持てず辛うじて「フォン」の称号だけは名乗れる程度の身分なのである。
ユンカー階級出身の著名な軍人では、ドイツ参謀本部の名声を確立させた智将ヘルムート・フォン・モルトケ、WW1の名将パウル・フォン・ヒンデンブルク、WW1とナチスドイツの間の時代、いわゆるライヒスヴェーア(共和国軍)時代の参謀総長ハンス・フォン・ゼークトなどが挙げられる。そうそうゼークトで思い出したが、彼はモノクル(片メガネ)を愛用していて、このモノクルっていうアイテムは非常に貴族的だなあ。フレームも無い円形の単なるレンズを、眉のところの骨と頬骨で挟み込んで片目だけで使用するのだが、これは眼窩の窪んだ欧米人でないと使えないでしょうね。日本人では平井堅草刈正雄級の濃い顔でないとまず無理でしょう。
(続く)